世界の斜陽から

旅ブロ ADHD 元売人 時々四つん這い be動詞と出会った24の夏 自転車 船 鉄道 飛行機 野営 なんでも可 終わりなき道程と 果てしなき世界の歪(ひず)みに 斜めに映る この眼差しから思いを込めて

中国 〜ラオス蒼氓・昆明吟遊編 第4章〜

中国の国旗が後方ではためいていた 水道橋博士に似た長距離バスの番頭は、国境からバスを走らせ 欝蒼とした密林の景色とは永らく不釣り合いであった カンフー映画を取り出し、新たなテープをセットした

先ほどまでのアイやぁ!的な丁々発止なテンポとは変わり、重々しいオープニングの直後には軍人たちが円卓に地図を広げ、ブラウン菅越しで眉を顰めていたのだ

劇が始まり30分も経つ頃には、この映画が日中戦争を背景にしたプロパガンダ映画であり 当然のごとく、劇中に出てくる日本人は民家に押し入り女をなじり、金品や食糧を強奪していくのだから 慣れない接続詞を並べながら、町に火を放つ日本兵を打ち倒す勧善懲悪ものであるのは 車中の誰が見ても明らかだった

僕が寝座るシートは横三列に配置された真ん中で前から二番目であった さほど行き過ぎた懸念でもないと思うのだが、僕が座る後ろから注がれる視線は ブラウン菅に映った映画よりも、僕の背中を伝い発せられる挙動に向けられていたのだ

日本兵が日本語を話す場面では、水道橋博士が画面を指差しながら 僕にアイコンタクトを送ってきた これは憎悪の反復や愛情の裏返しなんて単純なものではないと、耳の裏筋から落ちる冷や汗が囁くのが解った

その夜は強い雨が降った 咆哮とした、エンジン音が鳴り響く誰もが寝静まった車内で僕は叫びながら目をさました 夢に出てきた母親は愛車のハンドルに手をかけ、僕の制止を振り切り信号を無視し、僕と共に谷底に落ちていくのだった