サイパン島 〜バンザイクリフ〜
日の入りまでの時間に空きがあった僕は
借りていたレンタカーで 郊外に位置するバンザイクリフへ向かっていた
大戦中、駐留する日本兵の多くや民間人が疲憊する戦況を重んじ、この岸壁から身を投じ、
過酷を極めたオセアニア戦域の中でも、象徴する場所の一つとして記憶されている
シーズンを外れ、島を訪れる観光客も少ないせいか
日の入りを控えたバンザイクリフは、張り詰めた静寂に囲われていた
モータープールに車を進め
区間を知らせる白線をよそに 横着な縦列を敷いた
真っ白な頭髪の東洋人夫婦と
現地のガイドらしき人間とすれ違いざま 会釈を交わし
切り立った岩肌と波しぶきが眼下に広がる 慰霊碑の脇に腰を落とした
言葉よりも、不定義ではあるが込み上げる感覚があった
誰かと思いを分かち合えるまで、この場所に残ろうとしていたが
日の入りが迫り、最後の老夫婦が居なくなってからは
岸壁にせさぶ波の音と不徳な大戦の端々を、
反芻するかのような海猫の鳴声が丘の展望から立ち聞かれるのみであった