インド 〜南インド・エルナクラムに向かう道から〜
声をかける直前には、物々しい異変に気付いていたのだが瞬時に好奇心が割って入り 振り向きざまに僕の肩に手を掛けたように思えた
その異変とはフロントとリアを除いた、全ての窓ガラスが (恐らくであるが)外されていたことなんかではなく 誰がこのシュチュエーションに身を置いたとしても ”先客”と判断されるべき方々が車内に見受けられたのだ
僕はてっきり 予めルートが決められている 東南アジアでは良く見かける 乗り合いを主とした白タクかと思って、即座に聞いてみた
「エルナクラムまで行きたいんだけど、これは行かないよねぇ?」
何せ 時計の針は深夜の1時を回ろうかとゆうところだ 確率から見て、40数kmも離れたエルナクラムまで助手席に乗った小柄な中年と 前のシートに比べれば 幾分ネオンの灯りが行き届かないが 老いを感じさせない姿勢を保ちながら 前のめりでシートに腰掛けていた 10代であろう青年とが エルナクラムを目的地に据えていては 何か裏があるに違いないからだ
僕が名詞を全面に押し出した なまら英語を喋りおえると 少しの沈黙が横切り 車内の3人の関係性が公となる事態が訪れる
*・・・ここからは間違いでなければヒンドゥー語を話していた彼らのニュアンスから 限りなく筆者が汲み取り、要約したものを掲載しています
青年「ねえ、パパ! この人外国人だよっ だって英語を話してるし あと、さっきからエルナクラムに行きたいって言ってる」
運転席の中年「ああ、そうだな。ジャシッド断りなさい」
青年「なんでパパ!? 乗せていってあげようよ 外国人が僕達の車に乗るなんて初めてじゃないか?」
この会話を前にした時ほど、自らが異国から足を踏み入れたのだと実感したのは 未だかってないかと思えるほど あの青年”ジャシッド”の眼の輝きは印象的であった
同時に、この場所では僕の日常の延長を辿るよりも 彼らの眼の前に突如として現れた僕の存在こそが 非日常であると 僕だったりに認識させるべきであり 何かと面倒ではないのだとも思えた
歳が15になるジャシッドは 父親だけでなく 助手席に座る中年にも一生懸命に説得をしていた
*・・・尚、後々の会話でこの中年は彼等と同居をしている叔父さんだと発覚した
この土地でこの言葉に代わるものが在るかは別として 一先ずジャシッドの”手解き”により エルナクラムまでのロードクルーズが催行されることになる
ジャシッドの隣に案内されるや否や 先ほどまで僕を乗せることに敬遠気味であった父親が何かを渡してきた それは僕らの経済社会で使われる言葉を借りるならば 業務用だとかお徳用なんて呼ばれ方をしていて 本来ならうず高く 詰め込まれているはずの 耳が付いたサンドイッチ用の食パンであったのだが 僕の手元に渡された時には 残り4〜5枚を数える程度になっていた
彼等の心許ない夜食を目の当たりにし 車に乗り込んだタイミングを呪う以前に 開かれた好意と類い稀なジャシッドの好奇心に 平伏した僕は 込み上げてきたものを噛み潰すように それを貪った
それは旅の初日を飾る僕なりの気概やパフォーマンスを自らに見せつけるだけでなく 彼等の眼差しから見える 僕との距離関を縮める為でもあったのだ
インド 〜南インド・エルナクラムの中心から〜に続く