世界の斜陽から

旅ブロ ADHD 元売人 時々四つん這い be動詞と出会った24の夏 自転車 船 鉄道 飛行機 野営 なんでも可 終わりなき道程と 果てしなき世界の歪(ひず)みに 斜めに映る この眼差しから思いを込めて

モンゴル 〜 蒼き原野の果て・chap. 1 〜

目を覚まし、あたりを見渡すと車窓の結露の隙間から草原が広がっていた 北京から夜行バスに乗り、昼夜をまたぎ中蒙の国境にある街、二連浩特(エレンホト)に着いたのは朝の6時前

乗客の6割ほどはモンゴル人だったらしく、どうりで車内には、中蒙関係の軋轢から染み出た褐色めいたフラストレーションの断片のようなものが所々で、弾けては消えるのが見受けられた

中国側の二連浩特(エレンホト)から、モンゴル側のザミンウードまではジープタクシーを使うのが越境者の常道とは聞いていた。 ただ、問題は運転手との料金交渉であり、 事前に料金を確認したにも関わらず、中国側のパスポートチェックを抜けて、両国の緩衝地帯に差し掛かると繰り広げられる、賃上げストはモンゴルを目指す旅行者の、口開けの手土産として、旅行者の間では語り草になっていた。

タクシー乗り場の縁石に座り、僕がドライバーの周到な吟味をしていると、 大風呂敷を携えた、他人に疑いの目を向ける事とは縁が無さそうな、福々しいご婦人が私の横に座り、携帯を充がってくるのであった

〜 chapter. 2 〜 へ続きます

アメリカ 〜サンディエゴ・夜翔編〜

この街での目的を、バスストップのベンチに腰掛け思い返していた

夜の8時を回り、翌朝に出る早朝便までの時間を縁取るためだったのだ

この街での滞在中、ただ一人だけ 微笑みをくれた定員がいるコンビニの前を何度となく横切る

交差点のふちに座り 自らの生い立ちを罵り それと引き換えに施しをせがむ、ブラックシスター

見栄と矛盾がすれ違う、立体交差を抜けて 味気のないチャイニーズレストランに入る

どこかの社員食堂で食べた、管理職者向けに味付けをされたようなチャーハンを二口ほど頬張り

残りを、 先ほどのホームレスとは別の奴にくれてやった

初めてのアメリカで 僕が納得できる証明らしきものを手に入れるために

サイパン島 〜バンザイクリフ〜

日の入りまでの時間に空きがあった僕は

借りていたレンタカーで 郊外に位置するバンザイクリフへ向かっていた

大戦中、駐留する日本兵の多くや民間人が疲憊する戦況を重んじ、この岸壁から身を投じ、

過酷を極めたオセアニア戦域の中でも、象徴する場所の一つとして記憶されている

シーズンを外れ、島を訪れる観光客も少ないせいか

日の入りを控えたバンザイクリフは、張り詰めた静寂に囲われていた

モータープールに車を進め

区間を知らせる白線をよそに 横着な縦列を敷いた

真っ白な頭髪の東洋人夫婦と

現地のガイドらしき人間とすれ違いざま 会釈を交わし

切り立った岩肌と波しぶきが眼下に広がる 慰霊碑の脇に腰を落とした

言葉よりも、不定義ではあるが込み上げる感覚があった

誰かと思いを分かち合えるまで、この場所に残ろうとしていたが

日の入りが迫り、最後の老夫婦が居なくなってからは

岸壁にせさぶ波の音と不徳な大戦の端々を、

反芻するかのような海猫の鳴声が丘の展望から立ち聞かれるのみであった

ネパール 〜ルンビニー編 pt1〜

ルンビニーを知らなければ、ネパールの印象は大きく変わっていた

6000m級の雄峰に囲まれ、ヒマラヤトレッキングの起点とも西欧人の避暑地とも、二面性を併せ持つ街ポカラ 部屋に置いておいたメガネが亡くなってからとゆうもの ポカラはおろか、宿のテラスから拝めるアンナプルナにでさえも愚痴を吐く日々が続いていた

インドに戻る途中にあるルンビニ仏教の開祖である仏陀=シッダールタが生まれた場所である

事前情報によれば、アジア各国が建立した仏教寺院にお布施を払えば泊めてもらえ 朝夕の座禅・瞑想に加え精進料理が振舞われるとゆうのだ

ルンビニへ着いたのは早朝であった 起点となる町から路線バスに乗り込んできたのだが、道中 車窓からは朝焼けに焦がされた麦畑と我が子を家の軒先から見送る 祖母らの慎ましい姿が見て取れた

〜 pt 2 へ 〜

中国 〜ラオス蒼氓・昆明吟遊編 第4章〜

中国の国旗が後方ではためいていた 水道橋博士に似た長距離バスの番頭は、国境からバスを走らせ 欝蒼とした密林の景色とは永らく不釣り合いであった カンフー映画を取り出し、新たなテープをセットした

先ほどまでのアイやぁ!的な丁々発止なテンポとは変わり、重々しいオープニングの直後には軍人たちが円卓に地図を広げ、ブラウン菅越しで眉を顰めていたのだ

劇が始まり30分も経つ頃には、この映画が日中戦争を背景にしたプロパガンダ映画であり 当然のごとく、劇中に出てくる日本人は民家に押し入り女をなじり、金品や食糧を強奪していくのだから 慣れない接続詞を並べながら、町に火を放つ日本兵を打ち倒す勧善懲悪ものであるのは 車中の誰が見ても明らかだった

僕が寝座るシートは横三列に配置された真ん中で前から二番目であった さほど行き過ぎた懸念でもないと思うのだが、僕が座る後ろから注がれる視線は ブラウン菅に映った映画よりも、僕の背中を伝い発せられる挙動に向けられていたのだ

日本兵が日本語を話す場面では、水道橋博士が画面を指差しながら 僕にアイコンタクトを送ってきた これは憎悪の反復や愛情の裏返しなんて単純なものではないと、耳の裏筋から落ちる冷や汗が囁くのが解った

その夜は強い雨が降った 咆哮とした、エンジン音が鳴り響く誰もが寝静まった車内で僕は叫びながら目をさました 夢に出てきた母親は愛車のハンドルに手をかけ、僕の制止を振り切り信号を無視し、僕と共に谷底に落ちていくのだった

アメリカ 〜サンディエゴ夜襲編〜

カンクンに別れを告げて 最終日に降り立つ予定であるサンディエゴに飛んだ 大国のアメリカをトランジットによる僅か十数時間の滞在で語るなんてのは、あの国のスケールをこの島国から見上げてきた、向こう見ずな気質と共鳴する節が文節を伝い、読み取れるのではなかろうかと思い、したためてみる

空港からその日使える金額の12$をポケットにしまい、ダウンタウンと書かれた大きな看板をくぐり、西海岸フュージョンのアルバムアートワークでも、割と背表紙に描かれていそうな 高層ビル群を目指す

ハーバーを伝いながら、その先に見える日の入りと相まるサンディエゴの海岸線から街並みへは 幼少期に観た摩天楼やマンハッタンからは似つかわしくない 儚さがあり ラッシュアワーも重なってか、ここに住む人達から出る生活の匂いが立ち込めていた

テトラポットから身体を投げ出し 竿を垂らしているおじいさんに 獲物がかかり 行く末を見守ることなく 脇を通り過ぎていき プアボーイ風の黒人二人組みが ベンチに腰を下ろしていて 僕に笑顔で合図を送る

そんな光景らが これまで培われてきた強欲で横柄なイメージで凝り固めていたアメリカに 歩を進めながら歩み寄り、僕の強張っていた表情や気構えをときほぐしていく

サンディエゴ往々編に続く

屋久島 〜白谷雲水峡を目指して編〜

宿を出て、屋久島空港から最寄りのバス停でバスを待っていると、一人また一人とザックを背中に背負ったハイカー達が集まってきた

水底まで見通せる清流の脇に立つバス停で乗り換え、本日の目的地である終点「白谷雲水峡」まで向かう、年間を通しても降水量が多い屋久島ではひと月の全日が雨に見舞われるのも珍しくなく、昨日から続く不安定な天気は雲水峡に着いても変わらないでいた

登山口が口を開けて待っていた。 さしたる威厳も無ければ、その先に待ち受ける神々しい風景の片鱗すらも、ここからでは感じ得ることはない 入山の申請書に筆を入れ、管理局の事務員から注意事項が読み上げられる。

あくまでも先延ばしになったロケット打ち上げ故の、屋久島巡業であるからして 尾張無頓着協議会の次長を務める、このわたくしが、フィールドに適したマストな登山用具を用意するつもりなど毛頭なく 前日からお世話になっているライダーズハウスに過去、置き忘れられていた雨合羽と長靴を拝借した次第であり

息巻く登山者を朝青龍顔負けの、切れ長な流し目を充てながら 心根ではほくそ笑んでいたのだ

次の章に続きます